六月二十一日(火)・写真小説
作者:黒冷




「ねぇ」
「なんだい」
 俺と彼女は、彼女の部屋の大きいクッションの上で、互いの顔を見つめながら寝転がっている。互いの顔に、互いの息がかかる距離だ。
「顔近いね」
「そうだね」
「でも、心の距離は近くないような気がするの」
 彼女の大きな瞳で俺の目を見つめてくる。心の距離ってなんだろうか。女の子は時々意味の解らないことを言うから困る。とりあえずキスすればいいのだろうか。
 そう考えた俺はキスしようと、彼女との僅かな距離を縮めようと近づいたが、その分彼女は遠ざかってしまった。
「そういうことじゃないの」
 彼女は少し怒った面持ちで見つめてくる。
「じゃあどういうことなんだよ」
「私にも良く解らないの」
 少々いらついた俺の語調に対して、彼女は困った表情を浮かべていた。
「そもそも心の距離というものが良く解らない。現に俺達は顔に息がかかるほど近い距離にいるのではないか。これ以上互いの距離を縮める必要はないのではないか」
 彼女は俺の目を真っ直ぐみつめてくる。
「しかも、距離が近すぎるのも良くないと思う。富士山だって遠くから見れば美しいが、実際行って見ればゴミが目に入る。要するに距離が遠ければ長所が目立ち、近ければ短所が目に付くんだ。だから、適度な距離感が大事なんだよ」
 言いたいことを言い終えた俺は、清々しい気持ちで彼女の瞳を見つめ、そして目が合った。
「あなたの論理的なところ好きよ」
 彼女は俺との僅かな距離を縮め、俺の唇をふさいだ。

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