六月二十八日(火)・三題噺
        お題:黒・ショートケーキ・浴衣
作者:黒冷




「チリーン」
 風鈴が静かな夏風に揺らされ、戦いでいる。
 今僕は、彼女の家の居間にいる。彼女の家は、所謂田舎風の家でそれなりに広く、そして部屋数が多い。夏になると、いつも彼女の家に行き、戸を全開にして彼女と一緒に居間で涼むのだ。
 そして今夜は、彼女と夏祭りに行く予定だ。案の定彼女は、僕の期待通りの副を着て団扇を扇いでいる。むしろ夏祭りに私服で赴く女の子ほど、男の気持ちを理解していないだろう。
 彼女の服を見て、祭りの存在を再確認した僕は、久しぶりに彼女に話し掛けた。
「なぁ」
「ん?」
 彼女は僕の方に首を向けず返答する。彼女に振り向いて欲しかった僕は、突拍子のない質問をする。
「祭りで何食べよっか。そうだ、お前の好きな苺がやたら自己主張するケーキを食べようか」
「ふーんそうね」
 彼女は、まるで僕の話を聞いていない。そこはつっこむべきだろう。
 不貞腐れた僕は、彼女の母親が用意してくれた二つのスイカの一方に手を伸ばした。
 スイカは、水々しく、赤い果実の中に時々種があった。
 赤より濃い色をしている種は、とても果実の色に似合っているようだった。
 さくさくとスイカを食べ始める僕。しかし彼女はもう一つのスイカには目を向けず、ずっと外の空を見ている。
 やがて、スイカを食べ終わり、スイカの皮を皿の上に戻し、彼女の見ている空を見ると、少し夕焼けになっていた。すると、彼女は僕の方を向き、僕の手を取り、嬉しそうに声を上げた。
「さぁ、行こっか」
 僕は彼女の手を強く握りしめ、浮かれながら祭りに向かうのだった。

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