七月十二日(火)・終わりを決めて書こう
        お題:おれたちの戦いは始まったばかりだ!
作者:kuma




 早朝。教室の目の前で、朝特有の冷えた空気を肺に送り込む。私は、この行為を大切にしている。火照った体や熱くなった頭を冷やすのに一番友好な手段だから。
「おはよ」
 扉を開けながら、静かにおそらくいるであろう“彼”にそう声をかける。“彼”は自分の席でいつものように本を読んでいた。“彼”は、一瞬こちらを見てから軽くお辞儀をする。
「今日は何を読んでるの?」
 荷物を一番後ろにある私の席にさっさと置いて、同じ列の一番前にある“彼”の席へと急ぐ。そして、本のタイトルを覗き見ると日本語でも英語でもない言語で書かれていた。
「む、難しい本・・・・・・読んでるね」
 近くにあったクラスメートの椅子に腰かける。“彼”はただただ本に書いてる文字を目で追っていた。
 その姿を私は頬づえをつきながら、眺める。
 最早、これは日課だった。
 “彼”と私は幼馴染で。小学校に上がってから、“彼”はいつもこんな調子で。
 私はそんな“彼”をみているのがどうしてか好きだった。
 綺麗な黒髪が初夏の風に揺れ、長いまつげが上下する。その眼差しは、至って真剣で、その様子から目を逸らすことができない。
――あぁ、やっぱり・・・・・・
 私は、“彼”のことが好きなんだと実感する。今まで、他の男子とは違う存在だっていうころは理解していた。でも昨日、ふと思ってしまったのだ。本当にそれだけ? と。
 それからは、一本道。そして、自覚してから居ても立ってもいられなくて、気合を入れて髪型を変えてみたりして、今日は登校してみたのだけど・・・・・・“彼”は気付いてくれなかった。
――鈍感・・・・・・
 心の中で愚痴ってみる。“彼”の性格は知っているけれど、やっぱり女の子としては気付いて欲しい。
「髪、変えたんだね」
「えっ?」
 不意に言われた言葉に私は変な声しか出すことが出来なくて。
「似合っているよ」
 気付いてくれたのだと分かった途端、うれしさとはずかしさで胸が一杯になってしまった。
「あ、ありがとう・・・・・・」

 幼馴染という関係から抜け出すのは大変かもしれないけれど、頑張ろうと思う。
 だって――私の恋(たたかい)は始まったばかりなのだ。

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