六月十四日(火)・プロットから小説を書こう
        お題:ももたろう
作者:奈月遥




 【桃の鬼退治】

 婆捨ても子捨ても当たり前のことだ。食糧を養えない者に与えるくらいなら、自分で食べて生き残る。そんな時代だった。
 山婆に拾われた桃も、捨て子だった。口にできるものは、野獣と奪い合った山の羊と、山に迷い込んだ人肉くらいだ。
 桃は、生みの親も、運命も、そして辛くても生きたいと望む自分を憎んでいた。
 ある日、桃は『鬼賀島』という理想郷の話を聞いた。『鬼』とは即ち魂のこと。『鬼賀島』とは、魂が祝福され全ての苦しみから解き放たれた者達の住まう処。そこでは、年中樹々が実をつけ、七宝が流れる川があり、不老不死の酒があるという。住民は仙術に長け、人々は彼らを畏敬の念を込めて鬼と呼んだ。
 桃はそこを目指し、旅に出た。鬼賀島を手に入れれば、自分も救われると信じて。
 しかし、相手は強大な鬼だ。桃も力を手に入れなければならない。
 桃が選んだ力とは、鋼をも喰い千切る妖犬の牙と、森羅万象を見通す猿の瞳と、風を自在に操る雉の羽だ。幸いこれらの生物は全て群れで生活しており、鬼賀島征夷の暁には種族に分け前を与えると言ったら、進んで一匹ずつ犠牲を出してきた。
 こうして力を得た桃は、雉の羽で飛び、鬼賀島へと辿り着いた。
 そこで桃が見たのは、幸せそうに笑う鬼達だった。ある者は祖父母と茶を?み、ある者は恋人と寄り添い、ある者は子供を抱き締め、皆幸せそうに笑っていた。
 それを見た桃は、沸々と怒りが込み上げてきた。これまで親にも運命にも見捨てられてきた桃には、目の前の光景が信じられなくて、そして許せなかった。
 だから、桃は三つの力を駆使して、鬼賀島を消滅させた。鬼も、樹々も、不老不死の酒も、後方もなく消し去った。
 残ったのは、たった三粒の宝石だけだった。
 けれど、桃には後悔はなかった。なぜなら、幸せがあんなにも憎たらしく、追い求める価値のないものと気付いたからだ。
 桃は三粒の宝石を握って、故郷へと帰っていった。
 その手にある宝石を、犬と、猿と、雉に渡さなければいけないと思いながら。


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