六月十四日(火)・プロットから小説を書こう
お題:ももたろう
作者:ぴそこ
昔々ある所に、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんが山へ芝刈りに行っている間に、もう一人のおじいさんの元へ行くのがおばさんの習慣でした。
そのおじいさんは鬼ヶ島に住んでいる青い老鬼で、悲しげな瞳をした寡黙な彼に、おばあさんはすっかり虜になっていました。
その日も青鬼に会いに行っていたおばあさん。町で買った果物を手土産に持っていくと、青鬼は声を出さずともかすかに微笑み、おばあさんの胸は高鳴りました。
しかし、その風呂敷を広げた途端、青鬼は「あっ」と言って果物を取り落としてしまいました。どうしたのかしら、とそれを見ると、床に転がったのは小さな桃。
おばあさんが桃を拾い上げると、青鬼はいつもよりいっそう悲しげな目をこちらに向けています。そうして彼は口を開きました。
「すまない、その果物は苦手なんだ」
「あら、どうして」
「前に話したろう、僕には昔、親方と呼べる赤い鬼がいたと」
どうして急にそんな話を、と思いながら、おばあさんはこくりとうなずきました。
「その友人を失ったのが、まさに桃太郎という奴が原因なんだ」
おばあさんは衝撃を受けました。何故ならば、まさにその桃太郎こそが自分の夫だったからです。
桃太郎と彼女が出会ったのは、今から四十年前。桃太郎が鬼退治をして巨万の富を得、当時団子屋の娘であった彼女にアプローチしたことから二人の交際が始まったのです。
ちなみにプロポーズの言葉はこうでした。
「お前のきび団子は俺の獣を呼び覚ますぜ」
しかし冬至は勇気果敢だった桃太郎も今では口ばかりがうるさいおじいさん。おばあさんはうんざりして、今の青鬼との関係に至るのです。
しかしまさか、この青鬼があの頃征夷された鬼たちの仲間だったとは考えていませんでした。
おばあさんは青鬼への申し訳なさと桃太郎への憤りで、とうとう家を出てしまいました。
怒ったのは桃太郎です。おばあさんからの置手紙を見るなり、倉庫で眠っていた栄光の刀を探り出して「やあっ!」と一振り。庭の岩がすぱりと斬れ、どしんと音を立てて倒れました。
「どうしたんだい、桃太郎」
やってきたのはかつての戦友、犬猿雉トリオ。和やかに昼下がりのお茶会を楽しんでいる時に大きな音がしたので、また夫婦げんかでもしているのかとやって来たのでした。
「どうしたもこうしたもない! あの野郎とうとう出ていきやがった! ちくしょう!」
声を荒げておじいさんは刀を振り回します。三匹は彼をなだめて落ちつかせましたが、やっぱりなと内心ため息をつきました。
「お前ら、ばあさんの居場所を知っているだろう」
三匹は黙り込みました。おばあさんが青鬼の元へ通っていたのは知っていましたが、おじいさんの肩を持つ気にもなれなかったのです。
これに憤慨するかに思われたおじいさんは、しかしすっかり参った様子で、しょんぼりと肩をおとして「頼むよ」とだけ呟きました。三匹は何だかこの老人が哀れに思え、また昔の熱き反情も思い起こされ、彼と一緒に鬼ヶ島へ向かうことにしたのです。
おじいさんと三匹が現れ、おばあさんは驚くと共に彼らを恨みました。「裏切ったのね」という視線を三匹に送りますが、三匹もすっかり昔の気分に舞い戻り、ものともしません。
「ばあさんを返せ!」といきり立つ桃太郎と三匹でしたが、青鬼だけは違いました。いつもの悲しげな目を彼らに向け、「争いなどやめよう」と懇願するような声をあげます。
しかし桃太郎は彼の言葉に耳を傾けず、力強く刀を抜きました。
そして、
後には赤く染まった青鬼とそれに顔をうずくめるおばあさんだけが残され、鬼ヶ島の財産といつかの四つの正義心はすっかりそこから消え去っておりました。