七月一日(金)・2W1H
        お題:鳥取砂丘・子猫たちが・投げ捨てた
作者:ぴそこ




ぷつり、足の指が切れた。コバルトブルーの破片が砂の中できらりと光る。
「どうした?」
「ビンの破片、踏んだ」
「あーあ」
 高原はしゃがみ込んで俺の左足を持ち上げた。急に片足を奪われた俺はバランスを崩して尻もちをつく。
「いてえ、二次災害」
「ごめんごめん」
 腰の痛みに耐えかねてそのまま寝そべると、苛つくくらいに青い空がけらけら笑ってきた。
「うるさい」
 オレ何もしゃべってないよ、と高原が隣に倒れ込む。知ってる、といい加減に答えて目を閉じた。太陽の視線がじりじり痛い。
「暑い」
 知ってる、とそっけなく返された。
うだるような暑さに一瞬まどろむも、隣から突如上げられた叫び声に目がさめた。
「うるさい」
「お前もやってみな。そのために来たんだし」
 俺は高原に手を引かれ、腰の痛みも忘れて立ち上がった。腹の底に力を入れ、声の限りをはり上げる。
「亜矢のくそがー!」
「おお、言うねえ」
 楽しげに笑う高原に「俺ら格好悪くね?」と訊くと、「そりゃかっこ悪いだろ」高原は砂を蹴りながら歩き始めた。
「二人の男が一人の女好きになってさ。その女に散々もてあそばれた挙句『仔猫ちゃん』呼ばわりだぜ」
「『私にとっては、二人とも可愛い仔猫ちゃんよ』」
 俺が彼女の猫なで声を真似ると、高原は振り返って吹き出した。
「かなぐり捨てようぜ」
「何を」
「俺らのプライド」
 そうして二人は砂丘に身を投げた。

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