七月五日(火)・設定小説
        お題:人が人に触れてはならない世界
作者:ぴそこ




 【夏、僕らは縁側で恋をする】

 夏の風が彼女のワンピースをなでた。ふわり、軽やかな純白が小麦色の膝元で揺れる。
 風が涼しいねと言う僕に、でも日差しがきついよと麦わら帽の下で彼女はしかめっ面を返す。額からしたたる滴が目頭をぬらしていた。
 触れたい、そう感じた。左手を頬に添えて右手をかざし、その親指で彼女の涙をぬぐいたい。
 いや、そんなことはしなくてもいい。ともかく触れたい。彼女の頬、髪、唇――ほんの指先でもいい。彼女に触れて、僕らの距離を確かめたい。存在を感じたい。
 しかし、それが僕らにとって苦痛であることは知っている。
 三等親外の者同士が触れ合えば、遺伝子の摩擦で激しい痛みが伴う。愛だけでは二人は互いの温度を知ることもできない。何の痛みもなしに触れられるのは家族のみ。
 二人にとって苦痛であることは分かっている。いるけれど。
 触っていい? と尋ねると、彼女は困ったように微笑んだ。
 僕は震える指で、彼女の左手を握る。
 何も怒らない。
「僕ら、本当に兄妹なんだね」
「うん・・・・・・そうだよ」
 触れ合う手と手の痛みの無知は、禁忌の存知をきりきり痛めた。

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