黒いヤツ
フェイド




 太陽が色を失っていく。

 絶え間のない銃弾のようだった光が勢いを失い、ボトボト落ちていった。

 白い雲が黒くなり、青い空を食い尽くしていく。

 全部がモノクロ、モノクロだ。笑えるくらいモノクロだ。

「まぁ、どーでもいいや」

 そんなステキな空を見上げながら、ボソリとつぶやく。

 空に浮かんだ大きな時計が、ぐるぐるぐるぐると異常な速さで回っている。

 ボクの目玉も、それとおんなじ動きをしていた。

 ぐーるぐる、ぐーるぐる。

 世界中が時計とボクの目玉に合わせて回転している。

 太陽も空も雲も木も花も雑草も回ってる。

 平和だなぁ。

 今まで何を悩んでたのかわからないくらいにいい気分だ。

 自然と笑みがこぼれてくる。

「あは、あはははは……はひひ、ひひひひひひ」

 だんだんと笑いが大きくなってくる。

 止まらない止まらない。止めようとも思わない。

「あーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ」

 その声につられたのか、真っ黒けな空からキラリと光る変なのが降ってきた。

 目にもとまらないスピードで、地面にどんどん刺さっていく。

 なかなか爽快な光景だった。

 するとどうだ、何かモコモコとそこが盛り上がって、小さな穴が開いたではないか。

 そこからゾロゾロと列を作って蟻さんが出てくる。こっちに向かって歩いてくる。

 ほんの少しの間に、ボクは完全に取り囲まれてしまった。そこらじゅう、黒いヤツだらけ。えらいこっちゃ、しかもこっちに

向かって進んできた。

 蟻さんたちが足元まで来た。靴を上って、ズボンの隙間から入り込んでくる。どんどんどんどん上ってくる。シャツの中

を這い上がってくる。どんどん、どんどん……。

 気がつけばボクは真っ黒な蟻さんの鎧を身にまとっていた。

 でもまぁ、鎧じゃないみたいだ。だってボクを守るんじゃなくて、チクチクチクチクチクチクチクと噛んでるんだもの。

 微妙に痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。でも気持ちいいかも。

 まぁ、どうでもいーや。

 どうでもいーや。

 どうでも……。



inserted by FC2 system