ローリング・ストーン
フェイド




 それはさながら絶壁のようだった。

 目指す先は、その絶壁の下に広がる大地。

 胸が高鳴る――俺は今、大いなる一歩を踏み出そうとしているのだ。

 ゆっくりと、慎重に、足を下ろす。

 バランスを崩せば、下にまっさかさまだ。一瞬の油断が、命取りにもなりかねん。

 背筋に流れる汗を感じながら、俺は足場となる場所を探す。

 あった。かろうじて足の先がつくぐらいだが、何とかなりそうだ。

 そこを支点に、ゆっくりと体を下ろしていく。

「ふぅ――――」

 思わず息をついた。

 最も困難な第一歩を俺は成し遂げたのだ。

 いける。この調子なら大丈夫だ。

 さらに視線を下に向ける。まだまだ目指す大地は遠い。

(慎重に、慎重に)

 俺はさっきの要領で、少しずつ、だが確実に下りていった。

 恐怖ににじむ汗と、それを克服しているという高揚感に包まれる。

(いけるぞ、あと半分だ)

 そう思った、次の瞬間だった。

 ズルッ!

 足を踏み外した。何が原因かなどと考えてる余裕はない。手を伸ばし、どこかを掴んで体を支えようとするも、失敗。

(ダメか)

 落ちていく。まっさかさまに落ちていく。体のあちこちを打ちつけられながら、転がる石のように目指していた大地へと

――

 叩きつけられて、ようやく動きが止まった。

(う、うぅ)

 全身が痛い。意識がぼんやりとしている。だが、しかし、

(生きてる……? 俺は、生きてるのか?)

 確かに生きている。あの絶壁から落ちて生きているなんて。

 ……奇跡としか思えない。

 不思議な感覚に包まれながら、ぼんやりと虚空を眺めていた。

 すると、倒れている俺に気づいた女性が、血相を変えて飛んできた。

「まぁっ! 大変、大丈夫ジョージちゃんっ!?」

 俺をかかえあげて、あやしながら言う女性――俺の母親だ。

 頼むから、こんな小さいガキを置きっぱなしにして下に行くな。



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