おんぶ 大西興治
あるところに、とても仲の悪い夫婦がいました。二人は毎日毎日、ケンカばかりしていたのですが、別れることだけはあ
りませんでした。
子どもがいたからです。今年で六才、春からは小学校にあがります。この子のおかげで、二人はなんとかやってこられ
ました。
ある夜のことです。またいつものようにケンカを始めた二人でしたが、その日は場所がよくありませんでした。
狭い階段の中腹。夫が上、妻が下です。
どんっ、ではありませんでした。とんっ、です。もしかすると、ちょんっ、だったかもしれません。
とにかく、妻は死んでしまいました。
夫は困りました。嫌いな妻がいなくなったのはいいとして、自分が殺してしまったのです。このままでは、大好きな子ど
もと別れなければなりません。
隠してしまおう。夫はそう考えました。
幸い、家の裏手には山がありました。埋めてしまえば大丈夫、みつかることはありません。
夫は急いで、妻を埋めに行きました。
家に帰り着くと、もう朝です。急いで泥だらけの体を洗い、階段についた妻の血を洗い流していると、子どもが起きだし
てきてしまいました。
夫は言いました。「今日は、もう少し寝ていなさい」
しかし子どもは、じっ、と夫のほうを見つめたまま、動こうとしません。そのまましばらく夫に目を向けていた子どもが、
不思議そうに言いました。
「ねえ、おとうさん。どうしておかあさんをおんぶしているの?」