りんご 司堂晶
「落としても知らないよぉ」
妹が不安げに僕を見上げる。
「だぁいじょうぶだって」
僕はそれを笑って受け流した。
おつかいの帰りにいつも通る一本道。妹は小さな買い物袋を一つ、それでも重たそうに一生懸命持ち上げている。僕
は――。
やはり小さな買い物袋を両手首に一つずつぶら下げ、そして。
両手のひらに真っ赤なりんごを一つずつ。
それをお手玉のように放り投げる。
夕日で真っ赤に染まった空を背景に、真っ赤なりんごがさらに真っ赤になって、宙を舞う。
妹はりんごが僕の手を離れるたび、その様子を不安そうに見つめる。
僕はりんごを、さらに高く放り投げた。妹はさらに不安そうな表情をしたけれど、りんごは無事、僕の手元に戻ってきた。
ほら、見ろ。僕はうまいんだ。
調子に乗って、もっと高く高く放り投げた。僕はりんごが落ちてくるのを待った。
でも。
僕は立ち止まった。妹もそれに合わせて立ち止まった。
僕は両手をかざしたまま、しばらくつっ立っていた。
なのにいくら待っても、りんごは落ちてこなかった。
妹がわっと泣き出した。
「お兄ちゃんのバカバカなんでりんご投げたりしたのお母さんにおこられるわたしも食べたかったのにひどいひどいよ〜
ばかぁ〜〜」
妹の支離滅裂な言葉の波は、僕の耳をほとんど素通りしていた。
僕は空を見上げた。
……空に、食べられちゃったのかな。
そんな馬鹿みたいなことを考えた。
……それとも、空に溶けちゃったのかな。
そう考えた途端、空が一層赤く染まったように思えた。