ニンジン
稲葉イオリ




 僕は東京の大学に受かって上京、初めての一人暮らし、彼女もいる。彼女は大学のサークルの後輩、これと言って可

愛い訳でもないけど可愛い所もある。自分もこれといって格好が良い訳でもないからつり合っているカップルといえばそう

だろう。授業は基本的にはよく出ているけどサボる事もしばしば、頭が良い訳でもないけど悪い訳でもない。よくいる人

間といえばよくいる人間だろう。

 僕は今、ニンジンを育てている。まぁ正確に言えばあまったニンジンの頭の部分を水につけてニンジンの葉を育ててい

る事になる。別に育てて食べようとか観賞用とか考えて育てている訳じゃないけど実家で母親がこれをやっていたのを

思い出して何と無く育てている。

 今日の朝も携帯のアラームで目が覚めた。布団を畳んでベランダで目覚めのタバコを吸う。ふと育てているニンジンに

目をやる。アパートで日が一番当たるその場所にニンジンがいる。いつの間にか日課となっていた水やりをする。

 今日は夏休みなのにサークルのミーティングで大学に行く事になっていた。とりあえず適当に朝飯を食べる。その後、

朝風呂。早々に風呂から上がると髪を乾かし服を着る。

 アパートを出ると大学に向かって自転車を走らせる。途中、コンビニで水を買った。彼女は金を出して水を買うなんて馬

鹿げていると言う。そこでいつも僕は蛇口から出てくる水もタダではないと言う。我ながら言い訳にも何にもなっていない

なと思う。コンビニで買う水はなんだかありがたみを感じる。ちょっとしたマイブームとなっている。値段の高い水を持って

部室前に着いた。集合時間5分前と言うのに着ているのは自分だけだった。まぁいつもの事だから怒る気もうせた。タバ

コでも吸って待っていよう。しばらくしてからようやくミーティングがスタートした。開始5分話し合いがいつの間にか雑談

になっていた。こうなると、もうここにいる意味がなくなるのでウソの用事を作って早々に退散した。

 アパートに帰ったら彼女が合鍵を使って入ってニンジンを観察していた。何か面白いものでもあるのかと聞いてみると、

来る度に成長しているのが面白いと答えてきた。ちゃんと毎日水をやっているからなと言うと、面白い答えが返ってき

た。水をあげたりして環境を整えているのは偉いが、実際に成長しているのはニンジンだからニンジンの方が偉いとの

事らしい。人間もちゃんと成長できる環境があるのにも拘らず成長しようとしない人いる。そんな人間よりもこのニンジン

の方が偉いらしい。相変らず面白い事を言う。まぁこいつのこう言う所が気に入って付き合っている訳なのだが最近では

一番のできだと思う。こいつは成長できる環境でちゃんと成長している。こいつはきっとニンジンぐらい偉いのだろう。



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