トーキョーN◎VA The Detonationリプレイ
「ほしの咲く夜」
月夜。凍ったように静かな夜。一人の青年がどこかに向かって歩いている。彼の瞳に迷いは無く、決意した足取りには揺らぎ一つ無い。
「十年か……」
溜息のような呟き。その中には永く沈殿した感情が見て取れる。彼は振り払うかのように頭を振り、目前を見やる。其処には扉。板張りの廊下を越え、彼は開く。
――羊の檻。
全てをここから。また始めよう。
……かくして、凍ったかのように静かな夜が動き出す。
***
RL:というわけで、六月本リプレイ用のセッションを始めましょう。ではまずアクトトレーラーを読み上げます。
一同:はーい。
RL:それでは皆様、ご静聴をば……。
ほしの咲く夜。見上げるたびに思い出すのは一つの物語。
守れなかったもの。刻まれたのは悲劇。
今、再び背負いしは二人の少女。
彼女は言う。後悔はしない、と。
重ねたのは過去の自分。いつかどこかで見た笑顔。
そして彼等は選び取る。彼ら自身の未来のために。
――例えば誰か一人の命と、引き換えに世界を救えるとして、君たちはどうする?
トーキョーN◎VA the Detonation
「ほしの咲く夜」
かくして、運命の扉は開かれる。
オープニング1:アラシ シーンプレイヤー:エルノス
「かくて時は動き出す」
開かれた扉。闇を切り裂くようにして、一人の青年が姿を現した。それを無言で迎えるもう一人の男。黒衣の、奇妙なまでに色白い肌を持ったこの男――エルノス・X・ウィルスは、目を開いて不意に訪れた客を見やる。
「お久し振りですね。時が、来たのですか?」
エルノスは微笑みながら声をかけた。
RL:かくして、運命の扉は開かれた……と。ではエルノス、キミの前に一人の青年が現れる。彼の名は普津真静夜。彼のことはキミもよく知っている。彼は久し振りに会った君に対して、無表情のまま告げる。
RL/静夜:「時が来た。契約の下に悪魔よ、巫女を守るのだ」
エルノス:(目を瞑り、俯きながら)「……仕方ありませんね」
RL/静夜:「迷うか、悪魔よ」
エルノス:「まさか。私は課せられた契約を果たさねばなりません」
RL:静夜は皮肉げに口の端を吊り上げる。
RL/静夜:「そうだ。迷う必要などない。そうでなければ、この世界が滅びるのだからな。ついて来るがいい、悪魔よ。巫女の下に案内しよう」
RL:彼はそう言って踵を返す。
エルノス:肩をすくめて、静夜について行きます。
RL:では、二人の姿が扉の向こうの闇に消えていくところでシーン終了だ。
オープニング2:トーキー シーンプレイヤー:苗木 果林
「仕事」
千早重工のオフィスの一角。苗木果林の仕事は、いつも遅くまで続く。一人息子の苗木悠はまだ保育園に上がったばかりで、早く帰ってやりたいところだが、仕事なので仕方ない。しかし今日に限って早く帰れそうだった。自分で悠を迎えにいけるのならば僥倖だ。彼女は仕事(デスクワーク)を早めに終わらせるべく作業を進めた……のだが。
「苗木くん、社長がお呼びだ。すぐに執務室へ」
今日も仕事(ダーティワーク)は突然に。彼女は溜息混じりに席を立つ。
RL:さて、果林。キミのオープニングだ。キミがデスクワークを進めていると、何食わぬ顔でキミの上司が耳打ちする。仕事だ。すぐに社長の執務室に行け、とのことだね。
果林:「社長が?」一瞬だけ残念そうな顔をするけど、すぐに表情を消し、社長室に向かう。仕事だし、仕方ない。
RL:ではキミは一瞬で思考を仕事に切り替え、席を立つ。社長室に着くと、社長の千早雅之がキミをいつも通りの無表情で出迎える。
果林:お呼びですか、と声をかける。まぁ、私が呼ばれたということは、厄介ごとでしょうけどね(笑)。
RL/雅之:「ご苦労様です。貴方を呼んだのはほかでもない、とある組織についての情報を集めてもらいたいのです」
RL:キミのIANUSに情報が送られてくる。すぐさまキミに伝達される情報。星詠という一族についてのもの。キミに課せられる仕事はこの一族についての調査だね。必要ならどのような手段を使ってもかまわないとのことだ。
果林:ふむ、その情報の中に家族構成とかは含まれてる?
RL:はい。
果林:では表面には出さないけど、その中に含まれている邑樹の写真を見て、「子供か……」と少し気分が重くなる。
邑樹:まだ私登場してないんだけど(笑)。
RL/雅之:「セニットの方で動きがありました。その一族を巡って、大きな何かが起ころうとしているようです。わが社の不利益にならないよう、処理して下さい」
果林:「了解です」退出してもいい?
RL:はい。雅之は一言、よろしくお願いします、と言って自分の仕事を再開する。
果林:では退出するわ。「失礼しました」
RL:そして君の仕事が始まる。
果林:社長室を出てから、溜息混じりに保育園へ連絡。今日も遅くなるから、悠を送っていってもらわないと。心の中で謝って、仕事に専念します。
オープニング3:タタラ シーンプレイヤー:イプシロン
「不協和音」
ネットの海に、彼女はダイブする。現実と仮想の境など曖昧なもので、一度それを越えてしまえば、其処にはもう境界などない。世界と一体化していく感覚。彼女――イプシロンにとってはありふれた日常。しかしそこに現れる闖入者。そのチャイムにイプシロンは、自らの感覚器の延長たる監視カメラを動かして確認する。フェイスゴーグルの下で僅かに動く表情。扉の前には現実世界の住人では、唯一彼女が心を許す少女が立っていた。
RL:では次はイプシロンのシーン。時間軸的にはシーン3の一日前くらいかな。今日も今日とてネットサーフィンをしている君に一人の客が訪れる。
イプシロン:へえ、どなたかな?
RL:まあ、君の家を直接訪れる知り合いなど、キミは一人しか思いつかない。キミのシナリオコネの星詠紗枝だね。
イプシロン:では、確認するまでもなくセキュリティを操作。扉の鍵を開くよ。
RL:では扉を開けて紗枝がキミの部屋に入ってくる。彼女は感心するかのようにキミに声をかける。
RL/紗枝:「相変わらず魔法みたいねー」
イプシロン:「そんなことは、どうでもいいよ。ボクに何の用かな? ひょっとして仕事の話とか?」
RL/紗枝:(苦笑しながら)「まさか。どうせマトモなものを食べてないんでしょ? ごはん作りに来てあげたのよ」
RL:そう言いながら彼女はキミに買い物袋を掲げてみせる。そして、台所借りるわね、といいながら料理を作り始める。トントントンと鳴り響く包丁の音。
イプシロン:肩をすくめてから、「その包丁使えたんだ」と呟く。長い間ほったらかしだったしね(笑)。
RL:彼女はキミの方を振り返って、「ジャンクフードばっかり食べちゃダメじゃない」と注意します。エプロン姿で(笑)。
邑樹:きっと紗枝ちゃんが台所を使い物になるようにしたんだね(笑)。
イプシロン:「えー、結構いけるよ? ジャンクフード」とフェイスゴーグル越しに紗枝と向かい合って言う。
RL:そんなキミに溜息をつきつつ、ガバっとキミのフェイスゴーグルを外してしまう。
イプシロン:外されたー(笑)。
RL/紗枝:「ちゃんと食べなきゃダメ。折角かわいいのに、痩せて台無しになっちゃうよ?」
RL:紗枝はキミの顔をベシッと両手で挟みこんで言う。そして「ご飯、出来たよ」と言いつつ素早く配膳するよ。
イプシロン:では大人しくご飯を食べようか。
RL:穏やかな団欒。彼女は君がご飯を食べるのを満足げに見ている。味は悪くない。
イプシロン:お礼も言わずに食べ終えるよ(笑)。
RL:了解。きっとそれが二人にとっての日常なのだろうね(笑)。紗枝はキミがご飯を食べたのを見届けると、微笑んで席を立ちます。
イプシロン:「んー。じゃ、また懲りずに作りに来なよ」
RL/紗枝:「うん。さよなら」
いつものように、立ち去っていく少女。しかしその姿はどこか儚げで、イプシロンの心に妙なしこりを残した。だから彼女は思わず追いかける。得意の電脳を使い、カメラを起動。紗枝の姿を追う。
「……」
果たせるかな、カメラが捉えたのは紗枝が彼女の家の前で泣きながら走り去る姿。無論、こんな姿を見たのは初めてだ。
「さよなら、イプシロン。お幸せに……」
言葉が響いた。停止する思考。有り得ない事だが、イプシロンは一瞬――本当に一瞬だが――紗枝の涙を目にして、困惑していたのである。
「仕方ないなぁ……」
イプシロンはすぐに動き出した。彼女とて、まだ人を捨てたわけではない。何も言わずに行ってしまった、水臭い友人を助けるために、少女は電脳の海を駆ける。
「全く……そういうセリフはボクの目が届かないところで言うものだよ。紗枝」
まあ、彼女の目が届かぬところなど、この地上には存在しないのだが。
オープニング4:カリスマ シーンプレイヤー:月観 邑樹
「月夜に語りて」
今日の紗枝ちゃん、なんか変……。
彼女――月観邑樹は従妹の星詠紗枝と月の光が照らす道を歩きながら胸中で呟いた。
その夜の紗枝の様子は不自然だった。何か隠しているような、そんな違和感が拭えない。邑樹はその引っ込み思案な性質から、そのことを言えずにいたものの、その違和感は彼女のどこか上の空のような表情を窺う度に膨れ上がっていった。
RL:次のシーンは邑樹のシーン。キミは星詠家の分家の人間な訳だけど、今日は本家に来ている。それで従妹の星詠紗枝に連れられて、月明かりの下で散歩している。
邑樹:じゃあ私は着物姿で、彼女の後ろを静々とついていきますよ。
RL:ではそんなキミの様子を見て、紗枝は親しみ半分からかい半分で話しかけてくる。
RL/紗枝:(悪戯っぽい口調で)「相変わらずそんな格好をして……。あなた元は良いんだから、もっとお洒落とか興味を持つべきよ?」
邑樹:困ったような表情で、「さ、紗枝ちゃん」とうろたえます。
RL:ではそんな様子に彼女はくすっと微笑んで、キミの髪を払う。
RL/紗枝:「髪が乱れていてよ?」
一同:!?(何故か大笑いする一同)。
RL:あれ? いかん。つい妙な演出を……(笑)。
邑樹:紗枝ちゃんって、お姉さまキャラなの?(笑)。
RL:(←開き直った)ええ、そうですとも!(一同笑)。
果林:あらま。間違いなくこの子は女子校ね。間違いないわ!(断言)。
エルノス:RLが何か妙な電波を受信しているようですね(笑)。
イプシロン:皆さん、落ち着いて。シーンを続けましょうよ?(笑)。
RL:OK。ごめん。シーンに戻りましょう(笑)。紗枝はキミの髪を払ってから、キミに意地悪そうに言う。
RL/紗枝:「そんな野暮ったい服はやめて、もっと今時のきらびやかな服を着なさい? きっと綺麗になれるわ。なんなら、私の服を貸しましょうか?」
邑樹:オロオロとしながら、「もう、紗枝ちゃん意地悪だよ〜」と半泣きになります。
RL:ではそんなキミの様子を可笑しそうに笑って彼女は「ごめん、ごめん」と謝ります。
邑樹:では、それを見て私もニコリと笑い返します(笑)。
月明かりの下、二人の少女は笑いあう。いつまでもこんな日々が続くといい。そんな願いを秘めて、二人は笑う。だけど、そんな二人の想いは、無常なる世の理の前に、脆くも崩れ去ろうとしていた。日常の終わりは突然に。それはすぐ其処まで迫っていた。
RL/紗枝:「相変わらずだね邑樹は。ずっと、変わらない」
RL:紗枝は目元に涙さえためながら笑う。
邑樹:でも、それは私にはどこか無理をしているように見えます。心の中で、今日の紗枝ちゃんはなんか変だな、と思いますが、何も言えません。
RL:では彼女は自分の表情をキミから隠すかのように踵を返し、歩き出す。
RL/紗枝:「帰ろうか、邑樹」
邑樹:(頷いて)「うん、紗枝ちゃん」
RL:だが、キミたちが帰路に就くと同時に声がかけられる。
RL:(重々しい声で)「――時が来た。巫女よ」
邑樹:「え……」と振り返ります。
RL:では、其処には黒服の男が二人(笑)。
一同:あ、あやしーーー!(笑)。
邑樹:えっと、紗枝ちゃんは?
RL:彼女はキミと男たちの間に立ちはだかる。邑樹を守るかのようにね。
RL/紗枝:「……静夜、さん」
RL:ちなみにこの黒服二人組はシーン1で登場した、エルノスと普津真静夜です(笑)。というわけでエルノスは登場ね(笑)。
エルノス:あ。私も確かに黒服でしたね(笑)。では静夜に言います。「彼女たちが?」
RL:静夜はエルノスに頷いてから、天を指差して言う。
RL/静夜:「見ろ。凶星が迫っている。ついて来るがいい、巫女よ。檻の準備は出来ている」
邑樹:では、彼の指差す先を見ます。
「……あ」
邑樹は思わず声を上げていた。男の指差す先、夜空には月と並んで巨大な星が禍々しい炎に包まれて地上を目指していたのである。
二人の少女の日常が音を立てて崩れ落ちた瞬間であった。
「期限は三日。それまでに決めるがいい。どちらが犠牲になるのかを」
RL:では、ここで神業《天変地異》を使用します。効果はN◎VA及び、世界の滅亡。ただしこの効果は三日後に発動します。というところでシーン終了。
エルノス:いきなり滅亡ですか。しかも期限付き(笑)。
オープニング5:ミストレス シーンプレイヤー:エルノス
「夜は全てを包んで」
RL:次はオープニング最後のシーン。黒服の男、静夜に連れられて、紗枝と邑樹は奇妙な部屋に入れられる。
邑樹:不安げに紗枝の服の裾を掴むものの、心の中では「私が紗枝ちゃんを守らなきゃ」と決意しています。
RL:では紗枝はそんなキミに、ただ「大丈夫だから」と繰り返します。
邑樹:で、ここはどこなの?
RL:星詠家本家の一角にある、いわゆる開かずの間です。キミは存在は知っていたものの、入るのは初めてですね。
邑樹:うう、私たちどうなるんだろう?
RL:では、そんなキミたちに静夜が告げる。
RL/静夜:「では、儀式の日までは此処に居ろ。巫女を狙って動く連中も出てくるだろうからな」
邑樹:え。それって……。
RL:彼は何も言わずに格子の扉を閉じる。半ば幽閉だね。
邑樹:あー、私が囚われの身に(笑)。
RL:邑樹はシーンから退場。
エルノス:では、扉の前から立ち去ろうとする静夜の前に現れます。こう、闇の中から溶け出すように。
RL/静夜:「儀式の日まで後二日。すべて、円滑に進んでいる」
エルノス:(目を伏せがちにしながら)「そう、あの時と同じように」
RL:ではキミの横を通り過ぎる静夜。君の顔を一瞥する。
RL/静夜:「何を言っている。全ての記憶を封じられ、彼女のことも忘れたお前が……」
エルノス:それには何も答えずに、彼を見送ります。
RL:では静夜は立ち去っていく。
エルノス:その後姿が見えなくなったところで、誰にともなく呟きます。
「……静夜。貴方は一体、何をしようとしているのですか?」
悪魔の一族たる青年は誰にともなく呟いた。そして、
「思い出せない……封じられているというのか、私の記憶が……」
呟きは闇に包まれて、消えていく。
儀式の日まで後二日。凶星はすぐ其処まで迫っている。