Tokyo N◎VA The Detonation 「A thistle」
Research11 奪取
SP:綾部トキ
シーンタロット:舞貴人(逆) 女性による支配
N◎VA軍の機密格納庫。そこは戦闘に出て傷ついたウォーカーが一旦休息を取る場所である。N◎VA軍本部から離れたこの場所はセキュリティも甘く、トキは配属当時には不満をもらしたこともあったが、今は逆に感謝している。
その格納庫の前に立つトキは、傍らのタオに話しかける。どうしても、聞いておきたいことがあるからだ。
「タオ、この先を行くと、オレ達はN◎VA軍にも、その日本に仕掛けてきたタタラにもケンカをしかけたことになる。もう戻れなくなるぞ。それでもいいのか?」
その質問に、タオは少し悩む仕草を見せたが、屹然と答えてきた。
「正直、恐怖がないなんて言いきれない。でもボクは行かなくちゃいけないんだ」
綾部トキ:「なぜ、そこまでにあのAIに執着するんだ?」
道杓:「わからない。ただの好奇心かもしれないし、いや、でもやっぱりアザミと過ごしたあの日々はとても楽しかったんだ」
綾部トキ:楽しかった日々、ね。「AIなんてものは、ただのプログラムだぜ。ただ人を喜ばすために、誰かが造りあげた感情だぞ、そんなもんは」
道杓:憐れんだ目をトキに向けます。「そういう人も世の中にはいるんだな……」ちょっと不服そうに言います。
綾部トキ:完全に憐れまれているな。「それに対しては、なにも言わないさ」じゃ、侵入しよう。もうローザの前に立つぞ。
RL:そのローザの外観は、キミが知っているものとは少し異なっていた。
綾部トキ:なに?
RL:ここで、何者かの
《天罰》が使用される。各部のスラスターが追加され、軽量化のために削られていた装甲が埋まっている。これは機密性を重視した改造だ。トキのローザは、宇宙に飛び立てるようになっていた。
綾部トキ:「誰だよ。ローザに化粧しやがったヤツは」小さく呟く。「こんなお化粧しなくてもローザはキレイなのにな。だがありがたい。一体、どこの誰だか――。ったく、アイツは」
RL:ローザのコックピットは既に開かれている。まるでトキを迎え入れるかのように。
綾部トキ:「さて、乗るぞ、タオ」と言って乗り込もう。
道杓:「ああ」と言って後ろから続きます。
綾部トキ:コックピットは前後にある。オレは前に乗る。後ろは椅子だけだ。
道杓:ありがたいです。
RL:では、ローザのコックピット内のモニターが次々と計算式を弾きだす。それは軌道エレベータを使わずに大気圏を突破するための計算式だ。成功率は――神頼みというものだ。
綾部トキ:ふむ、低いな。「だが一つ、計算に入れてないものがあるな。ローザには、オレの想いが詰まってるのさ。それがAIにはわからねぇ。行くぞ、掴まっときな、タオ」
道杓:「ああ」
綾部トキ:発進ボタンを押そう。
RL:空へと飛び立つローザ。しかし、その体はまだ重力に引かれ、下へと落ちようとしている。
綾部トキ:操縦桿をググッと握りしめる。そろそろ神業の使いどころか。「このままだと地球に引き戻される。アレを使うしかねぇ。タオ、しっかり掴まっときな」
道杓:「了解!」
綾部トキ:「気を付けるんだな。これからエンジンをかける。ちなみに、前にその椅子に座ってた奴は、これを使った時に死んだぜ」《突破》を使用する。
RL:不吉な。
トキが一つのボタンを押すと、コックピット内が赤に満たされて画面がブラックアウトした。
外から見れば、地球に引かれていたローザは、その影を一瞬揺らめかして、消えた。それはまさしくColorless flashだった。
Research12 Only the truth
SP:道杓
シーンタロット:真似衿(正) 人生の分かれ道となる選択
宇宙空間に飛び立っても、ローザの扱いやすさは変わらなかった。
目的のポイントには、何の問題もなく到着し、人知れず
息を潜めていたコロニーへと、侵入出来た。その内部の静けさは、杓にとって気味の悪いものでしかなかった。電源は全て落ちていて、普通は無数に漂っている整備用のドローンも全く見当たらない。
あるのは非常灯の、淡い緑の光のみ……。
綾部トキ:「なんだ、これは?」オレはローザから降りなくちゃならないで、静けさの中イラついている。
道杓:その様子をちらっと見て「ちょっと意外でしたよ」と言ってみます。
綾部トキ:「なにが?」
道杓:「あれだけ、AIに対して言っていたので、なんというか、ちょっと失礼かもしれないけど、感情の薄い人だなと思っていました」
綾部トキ:「オレは、AIを愛していないだけだ。どんな人間にだって、好きなものがあるだろ」
道杓:フッと笑って、「そうだな」と返します。
RL:研究所の最奥にまで二人は到着した。その場にあったのは、ギガトロンと言われる程の巨大な容量を持っているトロンと、それに数々の全身義体を製作するための機具、AIを製造するのに十分な電子ユニット、そして、一人の死体。
綾部トキ:死体に駆け寄る。「死体だ」
道杓:ボクも駆け寄ります。
綾部トキ:脈を測ってみよう。いや、ムダか?
RL:脈を測るまでもなく、血は固まっており、瞳孔は開ききっている。
綾部トキ:得物はなんだ?
RL:死因は、剣のようなものによる刺殺。その横には、どこかの壁に使われている金属を引き剥がして、剣のような形状に尖らせたものが転がっている。
綾部トキ:「一突き、か。致命傷を外してやがる。これはむごい死に方だぜ。これが得物か」
RL:死体の顔は、調べた人にはわかる。例のタタラだ。
綾部トキ:「こいつ、は――今回の事件の首謀者じゃないか。一体なにがあったんだ!? どういうことだ?」とりあえず、このタタラの目的がなんだったのか、調べよう。〈社会:ストリート〉で代用判定をする。感情のAを切って21にする。
RL:彼は、平和を愛している。かつての彼は、日本が世界を征服することで戦争がなくなることを望み、日本軍で兵器開発を行っていた。だが、13年前にとある亜光速移動ウォーカーの実験によって愛娘を亡くしたことで、日本に対する希望を失い、亡国した。そのため現在は、世界を戦争に向かわせている日本や企業を陥落させることが目的である。なお、彼の娘の名前がローザであることも判明する。
綾部トキ:ローザの父親だった……。なぜ、死んでいる!? クソッ!
RL:また、彼は日本や企業と対立するために、真のオペレーション・ミーティアストリームを考案していたらしい。その情報は後ろのギガトロンは沈黙している。
綾部トキ:「これは、ローザのお父さんの仕業だったのか……。それも、ローザの死をきっかけに思想変えただと? なんてことだ……!」なぜ、こんなことに……。「しかし、なぜ彼が殺害されている? なにがあった?」
RL:ギガトロンは沈黙を保っている。電源の落ちたトロンなど、死体よりも無意味なものだ。
道杓:ギガトロンに近づきます。
綾部トキ:「タオ? なにをするつもりだ?」
道杓:「こいつを生き返らせるんだよ!」《電脳神》を使用します!
綾部トキ:「生き返らせるだと? そんなことが可能なのか?」
――ウェブ――
それは全てのトロンが繋がった世界。全ての電子情報が詰まった世界。
電子情報は、即ち電気。電気は、即ちトロンの原動力。
この宇宙に満ちたこの情報流が、純粋な電気エネルギーに変換され、ギガトロンに灯が点る。低く音を響かせて、それはあるべき姿を取り戻した。
綾部トキ:……タオが軌道中のウェブを集約したのか?
RL:うん。
綾部トキ:それで、全てをエネルギーに変えて、ギガトロンを復活させたんだな。
道杓:いろんな意味で天才ですから。
RL:真のオペレーション・ミーティアストリームとは、日本に対抗するために172784810体の全身義体と同数のヴィークルが準備されている。
道杓:は!?
RL:それらは一人のAIによって制御されて、オペレーション・ミーティアストリームを実行する。つまり軌道上からの襲撃だ。
そして全身義体が破壊された場合、AIは軌道上に存在する
オービタルベースへ帰還し、リプログロムを行って再度攻勢を行う。
綾部トキ:つまり、約17000万回、襲撃しては帰還して、を繰り返すのか。
道杓:は? は?
RL:さらに一つの映像が開かれる。それは、アザミが完成した時の映像だ。アザミの最初の義体、それはトキにはよく見覚えがあるものだ。
綾部トキ:あの時、爆発した奴か。
RL:そして彼女は、目覚めた途端に自分の産みの親に詰め寄り、横にあった壁を引き剥がして、それを彼の腹部に突き刺した。
綾部トキ:なぜだ?
RL:彼は、満面の笑みを浮かべながらそれを見て、アザミの頭を撫でて倒れ伏した。ぱたり、とその金属板を置いてアザミは信じられないものを見たような、怯えるような、泣き出しそうな顔になり、立ち竦む。だが、彼女の体は彼女の意識とは無関係に動き出して、用意されていたヴィークルに乗り込み、星の海へと墜ちた。
綾部トキ:映像は終了か。
RL:そして、一つの情報が出てくる。アザミはIANUSから軍人と非軍人を識別し、軍人を自動的に殺すようにプログラムされている。
綾部トキ:オレ、危ないな。
RL:ああ、トキはアザミにとって殺害対象だ。
道杓:「あ、アザミが――」
綾部トキ:そこらへんの壁を叩く。
RL:ギガトロンは再び光を失い、沈黙する。全ての忌まわしき記憶を封じ込めるかのように。
綾部トキ:「狂ってやがる……!」と呟こう。「自分の娘の顔をした義体に殺人をさせて、それで笑みを浮かべて死んでいくってか! クソッ!」しかし、死人には手を上げないぞ。「くそ、ローザ――」苦々しい顔をする。
道杓:ボクは呆然としています……。
RL:《電脳神》の効果によって、さらにオービタルベースの位置も判明する。
綾部トキ:そこに向かうのが、ベストか。だが、オレは苦々しくずっとタタラの顔を見つめ続けている。歯ぎしりをしながら。
道杓:呆然と立ち尽くしていたけれど、突然正気がもどったかのように「アザミ! アザミに会わなくちゃ!」と言いだし始めて、トキには目もくれずローザに乗り込みます。
綾部トキ:さすがに走っていったのには気付く。「おい、タオ!」
RL:では、二人がローザに戻ると、モニターに誰かが書きこんだ情報が見つかる。あるヴィークルの航路の情報だ。それは地球に向かっている。
綾部トキ:「こ、これは航路!? 地球に向かっている?」
RL:モニター上でそのヴィークルの名称が出てくる。『A thistle』――日本語で言えば、アザミだ。そしてもう一ヶ所、少し離れた所にもアイコンと名称が表示される。そちらは『A garden』。
綾部トキ:ガーデン? なんだ?
RL:その位置はオービタルベースの位置と一致している。
綾部トキ:ああ、なるほど。そこから出ていったというのが見て取れると。
道杓:「アザミ……」と呟きます。
綾部トキ:そちらを振り向こう。
道杓:「……行こう。急がなきゃ」
綾部トキ:「わかった。飛ばすぜ」
RL:その前に、ちょっと考えてほしい。トキ、【理性】で判定を。目標値は12。
綾部トキ:一度冷静になれということか。オレにはまだなにか考えなくてはならないことがあるんじゃないか? 【理性】で達成値は15だ。
RL:現在、選択肢が二つある。一つはアザミの方を迎撃すること。しかし、現在地からそちらへ向かった場合、宇宙軍と接触する可能性が高い。
道杓:ああ。
RL:二つ目は、オービタルベースへ行くこと。ただし、この場合N◎VAが襲撃される。
綾部トキ:ローザが、N◎VAで――!?
RL:もちろん、アザミの方に向かったとして、アザミを撃墜しなければ、N◎VAは救われない。
綾部トキ:つまり、アザミを止めなければN◎VAは被害を受けるのか。あのローザの顔をした義体が、N◎VAで死神になるってことか。アザミを撃墜した後はどうなる?
RL:アザミを撃墜した場合、リプログラムを行うためにオービタルベースに帰還するだろう。
綾部トキ:で、またそこから出てくる、と。
RL:うん。でも、リプログラムには一定の時間がかかるから、その間は安全だ。
綾部トキ:「ここでアザミを迎撃すれば、アザミはオービタルベースに戻り、リプログラムが開始されるはずだ。タオ! リプログラムにはどのくらいの時間がかかる!?」
道杓:ど、どのくらい?
綾部トキ:「ニューロなら、わかるだろ!」
RL:短くて8時間、長くて1週間と言ったところだ。
道杓:ええええ!?
綾部トキ:つまりその間にやりようがあるってことだ。
RL:その期間は、その程度の情報を得て処理しなければならないものが増えたかによる。例えば、誰かと出会ってその人物に好意を抱いた場合、その感情を消すために時間がかかる。
道杓:ん?
RL:また戦闘で無駄が生じた場合も、それを処理するために時間がかかる。そういったものがない場合、リプログラムは即座に終了される。ようは、最適化ってことだ。
綾部トキ:もしかして、リプログラムされたのか?
RL:会ってみればわかる。
綾部トキ:それは一抹の不安があるな。「ま、つまり時間はとれるってわけだな、タオ」
道杓:「ああ」
綾部トキ:「なら、ここはやはり――」思慮から抜け出そう。「アザミだ。アザミを迎撃しにいくぞ」
道杓:ためらったかのような間を少し置いて「ああ」と応えます。
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